令和2年1月に国内で初確認された新型コロナウイルス感染症は、3年以上の歳月を経て5月8日から感染症法上の5類感染症となり、その後、国は罹患者や医療機関への財政支援を段階的に縮小し、令和6年3月末で支援策はすべて終了となりました。4月からは通常の医療提供体制での対応に移行しています。しかし、感染拡大時における医療のひっ迫は避けられず、我々は運営面、財政面でも大きな負担を強いられていることに変わりはありません。令和5年11月に公表された国の医療経済実態調査結果を踏まえた推計では、新型コロナの累計見直し、物価高騰、賃金上昇などの影響により、令和5年度の一般病院の医業利益率はマイナス10%程度に悪化する見込みが示され、令和6年度診療報酬改定は我々病院にとって追い風になると少々期待いたしました。しかし、蓋を開けてみますと、診療報酬本体はプラス0.88%改定となりましたが、その殆どは医療従事者の賃上げ・処遇改善に充てられ、急性期・回復期・慢性期の入院医療などは、類下げの検討や算定そのものを諦めざるを得なくなるほど、さらに厳しい要件が突き付けられることになりました。介護報酬改定も含め、当協会として改定後の影響をしっかりと把握し、対応していきたいと考えております。
また、令和6年度からは新しい京都府保健医療計画、高齢者健康福祉計画等の各種計画が始まりました。京都府内の医療需要や医療提供体制の変化に対応するとともに、府民の安心が得られるよう医療の充実に努めなければなりません。当協会としても計画等の進捗を確認しつつ、会員施設のご協力をいただきながら各々の課題に取り組んでまいります。
医師の時間外労働の上限規制適用も4月から始まりました。当協会が京都府より受託運営する京都府医療勤務環改善支援センターでは、病院の宿日直許可の取得、特例水準の申請病院には医療勤務環境評価センターによる評価受審、京都府への指定申請もサポートしてまいりました。4月開始以降も医師の労働時間管理に資する必要な支援を継続するとともに、宿日直許可の新規申請や見直し、新たな特例水準の申請の必要が生じた病院にも支援を行ってまいりますので、引き続き京都府医療勤務環境改善支援センターを積極的にご活用いただきますようお願いいたします。
医療DXは、政府の「医療DXの推進に関する工程表」に基づき、基盤整備が急ピッチで進められています。令和6年度診療報酬改定では、オンライン資格確認等システムで得られる診療情報・薬剤師情報の取得・活用、電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスへの参加、マイナンバーカードによる医療機関の受診実績を評価するインセンティブが設けられました。医療DX を推進する中でサイバーセキュリティ対策の強化も必要であり、当協会では会員施設が各々に対応できるよう医療DX 推進人材の育成等にも取り組んでまいります。
さて、本年10月16日には、当協会創立60周年を迎えます。令和6年度は創立60周年記念事業として各種事業を実施いたします。その主要となる事業は、本年9月28日、29日に国立京都国際会館で開催します「第65回全日本病院学会in 京都」です。当協会では全日本病院協会京都府支部を受託しており、本学会の開催に向けて企画・運営等、準備を進めています。学会の全体テーマは「地域医療構想前夜~嵐の中の航海 羅針盤を求めて~」といたしました。地域医療構想を実現すべき2025年が目前に迫っている中で、我々は「治す医療」から「治し、支える医療」へ、また、「病院完結型」から「地域完結型」の医療への転換を図り、超高齢社会に耐え得る医療提供体制を構築するべく、病院を中心として地域の関係者が医療機関の役割分担・連携を協議して様々な取組や情報共有を進め、構想実現に向けて着実に成果を上げてきました。その一方で、COVID-19で経験した未知の新興感染症の感染拡大、エネルギーや食材料費等の物価高騰により、継続的・安定的な医療の提供に大きな影響を及ぼしました。また、2025年の先の2040年問題、医療の担い手不足や社会保障財源の厳しい見通しにより、我々は医療の生産性・質の向上のために、働き方改革、医療DX 等、様々な変革に対応している途上にあり、まさに嵐の中を航海しています。そうした中で、本学会は、全国から医療関係者約3,000名が一堂に会し、特別講演、シンポジウム、演題発表など多岐に亘る企画を予定しており、その一つひとつが地域医療構想実現の羅針盤となることを確信しています。職種を問わず会員施設から多数のご参加をいただきますようお願いいたします。その他にも野球、バレーボール、フットサル、ゴルフの各種スポーツ大会を記念大会に位置づけて開催し、会員施設間の繋がりを一層深める機会になればと考えています。当協会のホームページのリニューアルにも着手し会員施設への情報提供の充実や利便性の向上を図り、創立60周年記念誌の発刊も予定しています。
医療を取り巻く課題は山積していますが、協会創立60周年を会員の皆様と大いに盛り上げて課題解決のための活力としたいと存じます。引き続き、会員施設職員の研鑽の場、相互連携を深める機会を積極的に確保するとともに、京都府、京都市、関係機関とも連携して取り組む所存ですので、今後とも皆様のご協力・ご支援を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。
令和6年5月23日
一般社団法人京都私立病院協会
会長 清水 鴻一郎