2025年1月1日
新年あけましておめでとうございます。
会員施設をはじめ、関係各位には旧年中も当協会にご支援・ご協力をいただき、誠にありがとうございました。本年が皆様にとって素晴らしい一年となりますよう心よりお祈りいたします。
そして能登半島地震からちょうど1年が経ち、今もなお、その爪痕が深く残っています。被災された方々が一日も早く日常を取り戻せること、被災地の一日も早い復興を切に願っております。
さて、本年は地域医療構想を実現すべき年です。京都府では、これまで各構想区域の病院が地域の医療需要と医療資源の状況を共有し、病床の機能分化や連携強化等を通じて、地域の実情に応じた医療提供体制の構築を目指してきたところです。我々は高齢者人口の増加による疾病構造の変化、医療・介護・福祉サービスの増加に対応する体制づくりに努め、少子化による深刻な働き手の不足に対しては働き方改革をはじめとした勤務環境改善、医療DXの推進などに尽力してまいりました。
しかしながら、未知の感染症である新型コロナウイルス感染症への対応や、昨今の物価、エネルギー費、人件費、委託費、保守点検費の高騰により、病院経営はこれまでになく厳しい状況に陥ることとなりました。収入のほとんどを占める診療報酬は公定価格であるため、こうしたコスト増は病院が負担しなければならず、もはや病院の努力だけでは限界に達していることは周知の事実です。
このため、令和6年度の医療・介護・障害福祉の報酬のトリプル改定は、2025年を目標年次とした地域医療構想実現に向けて制度間の調整を図る最後の機会であり、我々の病院経営の厳しい状況も踏まえて、報酬改定での十分な対応を国に期待していました。ところが、実際の診療報酬改定では0.88%のプラス改定であったものの、そのほとんどが賃上げに充当しなければならない紐付きの予算が認められたのみであり、経営改善につながらなかった病院が多いのではないでしょうか。それどころか、高度急性期機能を担う病院から慢性期機能の病院に至るまで一層厳しい算定要件が課され、報酬体系はますます複雑化するばかりで、むしろ働き方改革の妨げになったという見方もできます。
実際に、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会の3病院団体が行った令和6年度の病院経営定期調査では、令和5年6月と令和6年6月の経営状況を比較すると、病院の医業赤字・経常赤字はともに拡大し、令和6年6月には65%の病院が赤字という結果となり、支出増に対し診療報酬改定による医業収益は減少し、減収幅・赤字幅が拡大しています。中医協での改定の議論では、診療側の委員も入っていますが、内閣が決定した改定率の範囲内で診療報酬の分配を議論しているに過ぎません。少子高齢化という極めて難しい局面に対峙するためには、今がまさに思い切った十分な予算の確保と分配が必要な時であり、その認識の下で国や国会議員など、各方面に訴えてまいりたいと考えております。
医療現場では、人手不足も深刻化しています。人手不足による業務量の増加は、医療従事者を疲弊させ、悪循環となって医療の質の低下を招きます。人材紹介会社の高額な紹介手数料は人件費の増加に拍車をかけ、経営を圧迫します。人材紹介会社には採用時のみならず、定着支援まで責任を持たせるような仕組みが必要ではないでしょうか。今後の人材確保・定着には、昨年4月から始まりました医師の時間外・休日労働の上限規制、その他の医療職から事務職の働き方改革、タスクシフト・タスクシェアも含め、病院のあらゆる職種が一体となって働きやすい環境の整備に取り組むとともに、やりがいを持って働くことのできる病院づくりが不可欠です。当協会では、京都府医療勤務環境改善支援センターを運営しており、病院の勤務環境改善に関わるあらゆるご相談に対応し、支援をしていますので、積極的にご活用いただければと存じます。退職した看護職員の登録制による潜在化防止(看護職つながりネット)、病院薬剤師を目指す薬剤師・薬学生のサポート(薬剤師サポートネット)、資格がなくても病院で働くことができる看護補助者の掘り起こし(きらめく★看護補助者ネット)、医師事務作業補助者の養成、無料職業紹介事業(メディワークセンター)、その他新たな取組も含め、当協会ではあらゆる手立てを講じて引き続き人材確保・定着に力を入れてまいります。
医療DXを推進して業務の負担軽減を図る取組も急ピッチで進められています。オンライン資格確認システム・電子処方箋の普及や全国医療情報プラットフォームの構築、電子カルテ情報の標準化等により、患者情報を一元的に共有・活用できるよう次々と対応が迫られています。しかし、医療DXの導入費用とランニングコストも病院経営を圧迫する大きな課題の一つです。また、これまで院内で管理されていた医療情報が院外のネットワークやクラウドサービスで扱われるようになることで、医療機関における不正アクセスやランサムウェア被害も増加し、被害状況によってはシステムの停止や患者の受け入れ停止など、診療の継続を脅かす事態に陥っています。医療DX、情報セキュリティ対策にも精通したIT人材の確保・育成が急務であり、すべてのスタッフが安全にDXの恩恵を享受できる環境を整えなければなりません。当協会では、国、京都府、京都市に対し、こうした多岐に亘る課題を克服するための恒久的かつ大規模な財政的支援を求めるとともに、院内のIT人材の育成にも取り組んでいます。
地域医療構想は、2025年が終了ではなく、その後の高齢者人口も高止まりしたままで85歳以上の高齢者比率が大きくなり、高齢者の支え手が急激に減少していくとされる2040年を見据えた「新たな地域医療構想」の検討が進められています。現在の地域医療構想は、入院医療の機能分化・連携の強化を目指していますが、新たな地域医療構想では入院医療に加え、外来医療、在宅医療、医療・介護連携、医師確保など医療提供体制の全体像を描く方針の下で2024年度内の最終取りまとめに向けた検討が進められています。当協会では医療政策に関する正確かつ最新の情報・動向をタイムリーにすべての会員と共有するとともに、会員に従事するすべてのスタッフのキャリア向上を図り、強い病院づくりを支援してまいります。
令和6年10月16日に当協会は創立60周年を迎えました。全日本病院協会より、同協会京都府支部を置く当協会に京都での全日本病院学会開催の打診を受け、当協会創立60 周年記念事業の一つに位置づけて「第65回全日本病院学会in京都」を昨年9月28日(土)・29日(日)に国立京都国際会館で開催いたしました。実行委員会は当協会の役員で構成し、私を学会長として、副学会長は久野成人副会長と冨士原正人副会長、実行委員長は武田隆久副会長、副実行委員長は小森直之副会長と石丸庸介副会長が務め、その他の副会長・理事は実行委員として、学会プログラムの企画や企業への各種協賛の依頼など、協力して開催に向けての準備をいたしました。
迎えた当日の開会式では、主催者側に全日本病院協会の猪口雄二会長はじめ副会長の方々、当協会は私、久野・冨士原副学会長と武田実行委員長が登壇し、猪口会長と私が開会の辞を述べました。続いてご来賓の厚生労働省の迫井正深医務技監、日本医師会の松本吉郎会長、西脇隆俊京都府知事、松井孝治京都市長、日本医療法人協会の加納繁照会長からご祝辞をいただくとともに、京都府医師会の松井道宣会長、京都府病院協会の若園裕会長、日本病院団体協議会の仲井培雄議長にもご臨席いただきました。
全体のテーマは「地域医療構想前夜〜嵐の中の航海 羅針盤を求めて〜」とし、地域医療構想が一つの完成を迎える2025年の前夜ということで、地域医療を取り巻く嵐の中を航海している地域の病院が、羅針盤を得て、方向性を見定めることができるようテーマ設定をしました。一般演題は30 部門のカテゴリから口述発表566題、ポスター発表273題、合計839題もの演題発表があり、まさにこれからの病院を築いていくための羅針盤がたくさん詰まった学会となり、参加者数も全国から4,011名と、過去最高規模となり、国立京都国際会館内の13の口述発表会場、ポスター発表会場ともに活気に溢れていました。一般演題のプログラムは、当協会の職種別部会の皆様のご協力を得て編成いたしました。
本学会では多彩なプログラムを企画いたしました。学会長講演では「地方における民間病院団体の在り方」と題し、私から病院の多職種が支える京都私立病院協会の様々な取組を紹介し、多職種による貢献で民間病院の存在感を示していることを述べました。特別講演1では、日本医師会の松本吉郎会長から「日本医師会の医療政策〜地域を面として支えるために〜」と題して骨太の方針2024や新たな地域医療構想などにおける医療政策の課題と日医の見解について解説いただきました。特別講演2は、「茶は薬用より始まる」と題し、茶道・武者小路千家第14代の千宗守家元に茶の湯の歴史と根底に流れる考え方、茶は薬から始まって飲料となり、人と人とをつなぐものになったことを教えていただきました。特別講演3は、「ことばの呪能」と題して、「今年の漢字」を揮毫されている清水寺の森清範貫主に、ことばの意味、ことばに宿る力などについてご講演いただきました。学会企画は7題を企画し、学会企画1では「地域医療構想前夜」をテーマに、厚生労働省の迫井正深医務技監、産業医科大学医学部の松田晋哉教授、日本医療法人協会の伊藤伸一会長代行から、今後の地域医療構想では「地域全体を俯瞰した構想」、「医療機関機能に着目した提供体制の構築」、「限られたマンパワーにおけるより効率的な医療提供の実現」の観点が重要であることなどを語っていただきました。学会企画2は「厚生労働省以外の省庁は医療をどのように見ているか」と題し、厚生労働省(国立病院機構)、総務省(公立病院)、農林水産省(厚生連病院)、財務省(国家公務員共済組合連合会病院)の担当者からそれぞれの所管する病院の取り巻く厳しい状況が述べられました。学会企画3は、「あなたの病院の魅力ってなんですか?〜パーパス経営と持続的なブランディングの新たな手法〜」と題し、京都産業大学経営学部マネジメント学科の伊吹勇亮准教授に座長を務めていただき、当協会の清水幹久理事、矢野裕典理事、株式会社一保堂の渡辺正一社長の3名の経営者に「魅力的な病院・企業」を実現するためのパーパス経営、ブランディングについて語っていただきました。学会企画4は、「DXで医療がどう変わるか」をテーマに、国際医療福祉大学の高橋泰教授、厚生労働省の内山博之医薬産業振興・医療情報審議官、正幸会病院(大阪府)の東大里理事長・院長より、将来的に導入が求められる医療情報システムのクラウドネイティブ化について、推進する国の立場、日本で初めてクラウドネイティブの電子カルテを導入した病院の立場から、導入による業務効率化、入院患者数・病床利用率の向上、経済的な利点について述べられました。学会企画5は、「今後の働き方を考える」をテーマに、勝目康衆議院議員、株式会社プレシャスパートナーズの高﨑誠司社長、京都銀行の吉田敏宏人事総務部長の3名の有識者に登壇いただき、労働生産性を上げる働き方や、組織で活躍する人材の採用方法、職員のやりがいを高める取組について議論しました。学会企画6の「若手病院経営者の皆さん!時代の風を感じていますか?」では、座長の石井孝宜公認会計士から昨今の医療政策と中小民間病院の厳しい状況に触れ、これを踏まえてHITO 病院(愛媛県)の石川賀代理事長と富田浜病院(三重県)の河野稔文理事長・院長の若手経営者より2040年を見据えた医療DX と人材育成の取組みを語っていただきました。学会企画7の「テクノロジーの進化と経営戦略」では、ソフトバンクグループ株式会社の宮内謙取締役が、情報テクノロジーの進化の変遷を概観し、創業期から牽引してきたソフトバンクグループの経営戦略、医療・ヘルスケア分野への同社グループの取組を紹介いただきました。さらには、特別対談として、俳優の藤原紀香さんと私が「役者と医者の共通点〜一発勝負の厳しさ〜」をテーマに対談をいたしました。舞台・演劇を中心に活動する藤原さんに、役者としての心構えについてうかがいながら、失敗の許されない厳しい医療の世界との共通点について語り合いました。
学会一日目の夜は、通常の学会では懇親会が開催されていましたが、京都ならではの企画として、清水寺のご協力により、「一夜限りの特別拝観」として、学会参加者限定の拝観をさせていただきました。十一面千手観世音菩薩が奉祀された本堂で、清水寺の森 清顕 師より、能登半島地震と大雨災害からの復興を願う祈りが捧げられ、前回広島学会の優秀論文の表彰式を行いました。学会会場の国立京都国際会館からバスをチャーターしての清水寺までの移動でしたが、1,040名ものご参加があり、世界遺産である清水寺での式典と拝観を堪能していただきました。
企業からは、ランチョンセミナー、イブニングセミナー、スポンサードセミナーを開催いただくとともに、展示会場では68社もの企業に展示をいただき、企業展示の訪問者には京都ならではの商品をプレゼントするスタンプラリーを行い、おみやげコーナーも設置し、大いに賑わいました。そして閉会式では、次回開催地である北海道の齋藤晋次期学会長に学会旗を引き継ぎました。
本学会を成功裏に終えることができましたのも、多くのご参加を賜りました会員施設・当日の運営にご協力を賜りました会員施設の皆様、当協会役員・職種別各部会の方々が一丸となって取り組んでいただいた賜物であり、心より感謝を申し上げます。当協会の会員施設の力と絆の強さを改めて感じた学会となり、今後も会員施設とともに京都の医療の充実に取り組み、民間病院の存在意義をさらに高めていく決意を新たにしています。
第65回全日本病院学会in 京都のほかにも、創立60周年記念事業として令和6年11月15日(金)には「創立60周年記念式典・祝賀会」を開催し、397名ものご参加をいただきました。当協会の発展に功労いただいた47名の方々を特別功労者として表彰するとともに、会員施設の優良職員・永年勤続職員358名を表彰しました。第33期の保健医療管理士23名の認定式も行いました。また、毎年、会員間の交流と会員施設職員の健康増進を目的に行っている野球・バレーボール・フットサル・ゴルフの各種スポーツ大会は、創立60周年記念スポーツ大会として大いに盛り上がりました。当協会のホームページのフルリニューアルにも着手しており、会員施設にとってより利便性の高いホームページにするべく、本年3月のリリースに向けて制作を進めています。さらには、当協会が会員施設とともに病院医療の向上と地域医療の充実に向けて取り組んできた歴史を編纂した「創立60周年記念誌」は本年4月の発行を目指して進めており、会員及び関係各所に配布する予定にしています。
昭和39年10月16日の東京オリンピックの年に44病院で設立された当協会は、現在143施設が加盟する団体に成長し、京都府内民間病院の組織率はほぼ100%となっています。急性期医療から慢性期医療まで幅広い医療を京都府内の民間病院が対応しており、府内の民間病院を代表する団体として、また、多職種が結束して貢献する団体として内外ともに大きな期待が寄せられています。その期待に応えながら民間病院の価値をさらに高めていくとともに、山積する課題への対応にも全力を尽くす所存ですので、本年も皆様の変わらぬご支援・ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
令和7年1月1日
一般社団法人京都私立病院協会 会長 清水 鴻一郎